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三世代の女が紡ぐ昭和~~赤朽葉家の伝説~

惜しくも選に漏れたものの、直木賞ノミネート作。
「吉原手引草」は手練れの作品というイメージですが、こちらは何とも言えない奇妙な魅力を持ってます。
いわば三人の女を主軸に、山陰地方のとある町と日本を俯瞰した年代記、とでも言えばいいんでしょうか。
しかし、「年代記」なんて枠に収まりきらないのが、この作品の面白いところです。

鳥取県の紅緑村は、製鉄業で栄えていた。
繁栄の象徴は、村の開祖であり、製鉄所のオーナーでもある「赤朽葉家」。
村の一番高台に存在する、真っ赤な屋根の大豪邸である。
その高台から海に向かって、製鉄所の宿舎がだんだんに連なっていた。
連なった家々は、お偉いさんが上の方に住み、職工たちが下の段で暮らすという、製鉄所のヒエラルキーそのものだった。
その職工の中の若夫婦が、拾い子をもらった。
それが最初の世代の女であり、全編を通して主人公となる娘・万葉(まんよう)である。
万葉は、山陰地方の山深くに住む辺境の人・「山の民」の子供らしく、紅緑村の人々とはまったく違った風貌をしていた。
彼らは紅緑村ともどこの町の人々とも交わらず、時折、村の中で自死したものが現れると、そのしたいを弔ってくれるという伝説を持ち、人々から畏怖される存在だった。
なぜ万葉が村に置き去りにされたのかは、万葉自身も、誰も知らなかった。
万葉は「ひろわれっ子」といじめられながらも、愛情深い養父母の元で、弟妹の世話をしながら暮らしていく。
そして、ある日、赤朽葉本家の大奥様から、長男の嫁にと請われることになる。
望めばどんな高貴な生まれの嫁でももらえそうな赤朽葉家が、何故山の民の、しかもひろわれっ子を嫁に取るのか、周囲も、あるいは本家や分家の人々にも皆目分からなかったが、大奥様のタツに逆らえる人間はいなかった。
そして、タツの目は正しかった。
万葉は時折未来を透視する「千里眼」の持ち主だったのだ。
学校に通っても、字も読めず、勉強は皆目出来なかった万葉だが、その不思議な力は、確かに赤朽葉家の力となった。
当主の死期を透視したことによって、赤朽葉家は世代交代を早めることが出来たから。
万葉は他にもさまざまな未来をみた。
中には決してみたくなかった未来があり、万葉はそれを誰にも言えずに、一人胸にひめて苦しみ続ける。
四人の子をなし、妾の子供を入れて五人の子の面倒を見、赤朽葉家の当主夫人としての仕事をこなしていく万葉の背後を、昭和はさまざまな表情を見せながら流れていく。
製鉄所は職人がいなくなり、やがてオートメーションの波に呑まれていき、さらには製鉄業そのものが廃れていく。
高度成長時代の活気がオイルショックで冷え込み、またバブルで踊り始める・・
そんな昭和が流れる中、万葉の娘である毛毬(この妙な名前は、大奥様・タツの命名なのだ)は、お嬢様として育ちながら、全国を統一するレディースの親玉となり、さらには十二年間連載を続ける大ヒット漫画家となる。
その毛毬の娘・瞳子が、この物語の語り部である。
しかし、彼女の印象は極めて薄い。
母の持つ破天荒さはなく、祖母の持つ千里眼も、孤独に耐える強さもない。
平成に育った若者を象徴するような存在だ。
が、この薄っぺらな語り部だからこそ、流れ去った昭和の奇妙な躍動感が、万葉の生き様を通じて伝わるのかもしれない。
登場人物全てが、妙にねじれていて、まさに奇妙。
それがこの作品の一番の魅力だろう。

うん、私は好きだな。この小説。
でも、直木賞は取りませんわねぇ。やっぱり。
作者の桜庭一樹氏は、確かライトノベルの出身で、初期の「少女には向かない職業」あたりではそれほどきらめくものを感じなかったのだけど、このあたり↓

の作品からは、どんどん魅力的になってきたなあという気がします。
ますます化けそうな要注目!の作家と言っていいんではないでしょうか。
文体に好き嫌いは出そうですが、未読の方はチェックしてみて。
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テーマ : 読了本
ジャンル : 本・雑誌

祝直木賞&直木賞作家作品「メタボラ」

吉原手引草、直木賞を受賞しましたね。
おめでとうございます!です。
自分が面白いと思った本が評価されるのは、作者ならずとも何となく嬉しいもんです。

んで、今回の読後評は、既に直木賞を受賞し、海外でのミステリー賞にもノミネートされている、桐野夏生さんのメタボラ。
朝日新聞に連載されていたのだけど、私は読みのがしていた。
新聞小説って、ちょっと旅行に出たりすると、その後離れちゃうもんなんですよねー。
それはそれとして、今回まとめて読んでみました。

真っ暗な密林の中を、必死に逃げる若い男。
その男は、自分が何者なのか、このジャングルがどこなのか、まったく解らず、「これは夢に違いない」と思いながら、「ココニイテハイケナイ」という声だけを耳に聞いて、必死に逃げまどっていた。
そこで、フリーターの矯正塾とも言うべき場所から同じく逃げてきた、昭光というまだ18歳未満の若者に出会う。
自分が記憶喪失であることを昭光にだけは打ち明け、二人は行動を共にし始める。
男は、昭光に「ギンジ」という名前を与えられ。
二人がいたのは沖縄。
昭光は宮古島の金持ちの道楽息子で目下勘当中。
「ギンジ」はどうやら内地の人間らしい。
二人は、昭光のルックスを武器に、コンビニで知り合った若い女の部屋に転がり込むが、その生活も短期間で終わりを告げてしまう。
別々の場所で住み込みの生活を始めた。
やがて二人はそれぞれに、過去のくびきに引きずられはじめる。
だんだんと思い出されてくる「ギンジ」の痛ましい過去がそれに拍車をかける。
そして、ついにそれぞれの沖縄での生活が破綻を迎え・・

分厚いです。さすが一年連載の新聞小説。
でも、一気に読める。引き込まれるのですよ。
「ギンジ」と「昭光」の語りに。
ことに、昭光の宮古弁は、そのキャラクターとも相まって、宮古の太陽のように明るい。
対する「ギンジ」の言葉の暗いこと、しめっていること。
台詞のひとつひとつが対照的で、多分、これも作者のねらいなんだろうな。
「ギンジ」の過去が記憶の中から消してしまいたいくらいのものだったことを考えても、無理はないけど。

ここのところ数作桐野作品を読んできて思うのは、絶望を描くのが秀逸ということだ。
例えば「OUT」で、弁当会社にパートで働いている主婦、渋谷の町に立つ娼婦、そして「ギンジ」。
彼らの中に存在している「絶望」の重さ黒さに、思わずひるんでしまう。
なぜこれほどまでに彼らは絶望するのか。
ことに「ギンジ」の失望が絶望に変わっていく過程は、今の社会が生み出したものだといっていい。
そして彼らは、絶望の中で、何かをつかむ。
溺れる者がつかむ葦なのだろうが、その葦は既に腐っていたりする。
それでも、彼らはそれをつかまえ、腐った葦を糧に生き抜く。
それが、たとえ「死体遺棄」だろうと「売春」だろうと、「記憶喪失」だろうと。
希望にもならない希望。
しかし、それがあることで人は生きていられる。
深い絶望の中にある人間に、まっさらな希望など提示すれば嘘物語になってしまう。
桐野作品には、その手の嘘がない。
だから、時々読み進めつらくてひるむこともあるのだけど。
今回の作品は、沖縄が舞台。
あの陽光と海が、少しは気慰めになるかと思いきや、沖縄が抱える現実を、新聞が声高に叫ばない現状の中から拾い出してみせる。
その辺りも、さすが、な作品です。
読みかえせって言われると辛いけどね(^^;)

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逃げ場のない少年と家族の悲しみ~~僕はパパを殺すことに決めた

タイトルからして衝撃的な本書。


奈良の有名進学校に通う少年が、父親の暴力的教育から逃れようと家に火をかけ、継母と二人の弟妹を殺してしまった、というあの事件のルポルタージュだ。
本書内では、少年、父親、実母など、事件に関わる人々の供述調書が掲載され、少年のプライバシーを侵害したという問題も出ている。
確かに、本来表に出ないはずの供述調書が何故この本にまとめられているのか首をひねることもあるが、これを読まなければ解らなかった事情が明らかにされ、そしてそれは決して事件を起こした少年に対する非難を巻き起こすものではなく、むしろ、ここまで少年を取り巻く状況がねじれにねじれた原因が、主として父親と彼を取り巻く「医師偏重」の価値観にあるのだと理解できる。
もちろん一番の被害者は、炎の中で命を終えた親子三人であり、少年の犯した罪は決して償いきれないことではあるけれど、少年もある種の被害者だと思えてならない。
それだけ、供述調書に書かれた、父親の少年への教育、しつけは暴力的で、無惨で、虐待であるというに等しい。
少年の父親は、一家が医者と薬剤師ばかりを輩出してきた家で、一度目の結婚相手である、少年の実母もまた、開業医の娘だった。
この結婚は失敗に終わり、少年の妹は実母に引き取られ、実母は少年と会わないことを条件に離婚する。
この離婚も、父親の少年への教育熱を加速させる。
自分が引き取って育てる以上、絶対に医師に、しかも有名大学を出た医者にすると誓うのだ。
それは有名な開業医であった元嫁の父への意地なのかもしれない。
周囲がみんな医者という環境、そして父親の意地もそこに加わるとなれば、少年へのプレッシャーは二重にも三重にも強くなる。
そして父親はまさに鞭をふるうがごとくに暴力的に勉強を教え込んでいく。
小学生の頃は近隣でも群を抜いてトップにいた少年も、同じように秀才ばかりが集まった、近畿圏でもトップクラスの進学校に入ると、下から数えた方が早い成績に陥ってしまう。
一般の人から見たら無理もないことなのだろうが、もちろん、父親はそれを許すはずもない。
成績が悪ければ、父親の暴力が待っている。
継母が止めようとしてくれても、「息子はおまえの実の子じゃない」と遮られれば、継母はもう立ち入れなくなってしまう。
実母とは会えず、父方の祖父母は父親同様の「医師偏重主義」となれば、少年の逃げ場はどこにもない。
彼が元から反抗的で、暴力的な父親を殴り返すくらいの闘争的な少年だったら話は違っていただろう。
多分彼は一人で家出をし、連れ戻されてもへこたれずに何度も家を出ようとしたかもしれない。
けれど、この少年は複雑な家庭環境の中で、父親の価値観に洗脳されて純粋培養されすぎた。
反抗することは許されず、逃げ出しても結局父親の元に連れ戻され、また更に監視の目が強まることがあまりにも明白に解っている。
となれば、彼の前に残されていたのは「逃走」ではなく、すべてを「破壊」することしかなかったのだろう。
更にこの本の中で提示されているのは、少年が抱えるかもしれないひとつの障害だ。
この記述も含めて、少年のプライバシー云々が取りざたされているのかもしれない。
いずれにしろ、この余りにむごく悲しい事件は、ただ少年のせい、父親のせいとは言い切れないところに、私達が考えなければならない余地がある。
まだ個が確立されていないとはいえ、一人の人間として子供の価値観を重んじる事が出来るか、社会が閉塞された家族にどれだけ踏み込めるか、社会が子供にどれだけ多様な価値観、考え方を提示できるか・・・

やるせない事件だけれども、本書の最後に記された2つの事柄が、かすかな希望を感じさせてくれる。
娘と孫を亡くした継母の両親、少年にとっては義理の祖父母が少年を恨もうとするよりも、少年の更正に力を貸そうとしていること。
そして、専業主婦だった実母が、同じ医学界で息子に会える日が来ることを望んで、一念発起して医師になったこと。
いずれも、なまなかな気持ちで出来ることではない。
読み進めることが辛いところもあったが、この希望の光に救われる思いがした。

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江戸の「フーゾク」は文化があったなあ~「吉原手引草」~~

ショッキングピンクの看板が立ち並び、怪しげなおじさん達がこれまた立ち並び、間違えて踏み込もうもんなら、怪しげなオジサンに引っ張り込まれてしまいそう・・
それが「フーゾク」街のイメージですよね。
新宿歌舞伎町とか、西川口とか。
(両所とも規制が厳しくなったので、どんどん地方に流れているそうですが)。
出来ればと言うか、ぜーったい近寄りたくないのが、現代の風俗街だとすれば、江戸のそれは明らかに違います。
言わずとしれた吉原ですね。
絢爛豪華な花魁達がそれぞれの店の看板として君臨し、お大尽達が競って豪遊し、時にはお店の金をくすねて好きな女を身請けしようとする男がいたり、駆け落ちがあったり、心中があったり・・
吉原という郭の中にはドラマが充ち満ちていました。
その中でも、このストーリーは秀逸です。

当時の吉原でも伝説的な花魁・葛城をめぐって、吉原の人間誰もが口をつぐむようなセンセーショナルな事件が起きた。
しかし、何が起きたのか、葛城はどうなったのか・・吉原の人間は誰も語ろうとしない。
単なる心中や脱走ではない、恐ろしいほどの禁忌に触れたのだと言うことがそこから伝わってくる。
その事件に興味を惹かれ、吉原中を尋ね歩く男がいる。
葛城を抱えていた楼主、葛城について世話をしていた女郎、やり手ばあさんに、座敷に呼ばれる幇間、葛城の客・・さまざまな人間が、やがて男の熱意に負けてか、それともやはり話したくて仕方がないのか、その重い口を開きはじめる。
そして、ついに男が見つけ出した真実とは?

といったストーリー。
吉原って、こんなにいろんな人間が、それぞれに理由を背負いながら生きていたんだということが、まずもって面白い。
トップの花魁だけではない、その花魁の周りを取り巻く人々にもそれぞれの人生があり、ドラマがある。
そして彼らの口から語られる葛城という女性の魅力。
それぞれの語り口も、いかにもその職業の、そうした人生を背負ってきたであろう人々のキャラクターが出ていて、ついつい引き込まれてしまう。
ラストには、なるほど、そうだったのかというどんでん返しもあり、ある種のミステリーとしても十分に楽しめる。
そう思ったのは私だけではないらしく、今期の直木賞候補作にノミネートされてます。
著者は「仲蔵狂乱」などで既に実力、貫禄共に十分だし、いいんじゃないかな。直木賞。

それにつけても、つくづくと、江戸の風俗には文化があったなあと思う。
性と欲望だけを、お金を仲介してむきつけに交換するだけの現在の風俗とは違う。
欲望が渦巻く郭にこそ、生まれる文化があるはずなのに。
いっそのこと吉原だけがあって、他の風俗は全然ないって方がスッキリすると思ったりもして。

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ブラジリアンダンスとブラジル音楽、本と旅をこよなく愛する「恥かき」ならぬ「物かき」です(一応(^^;))。独断と偏見と偏った嗜好でつづるブログでございますが、どうぞお気軽に遊びに来てくださいませ。

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