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残酷なのに美しい~わたしを離さないで~

カズオ・イシグロと言えば、映画化された「日の名残り」くらいしか読んだことがなかった不勉強な私。
抑制された美しい文章、というのがカズオ・イシグロのまずもってのほめ言葉だったりしたのが影響しているかも。
そんなに抑制されなくていいから、オモシロイの読みたいのよ、というのが怠惰な本読みとしての私のスタンスだったりするので。
でも、この作品はすごく評判がいいので、へそ曲がりを押さえ込んで読んでみました。

主人公のキャシーは、「介護人」。
優秀な介護人らしく、キャリアは長いし、介護する人間を選ぶことのできる特別な立場にいる。
その彼女が、常に求め続けているのが、子供の頃を過ごしたヘールシャムという施設。
同い年や年長の子供たちが集められて暮らしていたその場所に似たところがあるたび、キャシーは「あれはヘールシャムかも」と思い、ヘールシャムで共に過ごした仲間のことをいつもいつも思い出す。
親と離ればなれに暮らさざるを得なかった子供たちが、長じて養護施設を出、成長するに従って、折に触れて過去を思い出す・・
切なくも、まあ、よくある美しい思い出話、のはずだった。
少なくとも、冒頭、私はそのつもりで読んでいた。
ヘールシャムなんて響きもイギリス的で、描かれている風景も、英国のそれで、「日の名残り」にも共通する端正な描写だし。
ところが、その淡々とした文章の中に、いつの間にか驚愕する事実が忍び込ませてある。
うっかりすると読み過ごしてしまうくらい巧妙に。
しかし、その事実は、ここでは書けないけれど、余りにも衝撃的だ。
けれど、文章は冒頭と変わらず淡々と進む。
主人公のキャシーは、激することも、号泣することもなく、ヘールシャムでの日々を思い出し、それについて考察し、時には後悔の念も抱くけれど、それにとらわれることはない。
彼女の思い出の中の少年、少女は、私達とは決定的に違っているのに、子供らしさという点では同じなのだ。

これは、壮絶なまでに残酷な話だ。
少なくとも、カズオ・イシグロでなく、別の作家が書いたら、読者の胸に迫るのは憤りや恐怖心だろう。
しかし、ここには美しさがある。
あらがうことのできない、透明で、残酷な運命を、まさに抑制された文章が抑制されているが故に美しく描き出す。
だから、憤りを覚えるより、キャシーの心情に寄り添いたくなる。
こういう小説を読むと、小説家の勝利、文体の勝利だなあとつくづく思う。
わずかな湿りを帯びた感覚と、自分の文章に陶酔しない冷静さは、日本生まれでイギリスで育ったという著者の背景によって生まれたものだろうか。
カズオ・イシグロ、次作も読みます。きっと。
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テーマ : 本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

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dancingwolfさんの文章が、すごく興味をかき立ててくれますね。カズオ・イシグロさんの名前は聞いたことはあっても読んだ事はなかったのですが、ムチャムチャ読みたくなっちゃいました~☆

ぜひぜひ読んでみてください。日本の作家にない味わいに触れられますよー。
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Author:dancingwolf
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ブラジリアンダンスとブラジル音楽、本と旅をこよなく愛する「恥かき」ならぬ「物かき」です(一応(^^;))。独断と偏見と偏った嗜好でつづるブログでございますが、どうぞお気軽に遊びに来てくださいませ。

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