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逃げ場のない少年と家族の悲しみ~~僕はパパを殺すことに決めた

タイトルからして衝撃的な本書。


奈良の有名進学校に通う少年が、父親の暴力的教育から逃れようと家に火をかけ、継母と二人の弟妹を殺してしまった、というあの事件のルポルタージュだ。
本書内では、少年、父親、実母など、事件に関わる人々の供述調書が掲載され、少年のプライバシーを侵害したという問題も出ている。
確かに、本来表に出ないはずの供述調書が何故この本にまとめられているのか首をひねることもあるが、これを読まなければ解らなかった事情が明らかにされ、そしてそれは決して事件を起こした少年に対する非難を巻き起こすものではなく、むしろ、ここまで少年を取り巻く状況がねじれにねじれた原因が、主として父親と彼を取り巻く「医師偏重」の価値観にあるのだと理解できる。
もちろん一番の被害者は、炎の中で命を終えた親子三人であり、少年の犯した罪は決して償いきれないことではあるけれど、少年もある種の被害者だと思えてならない。
それだけ、供述調書に書かれた、父親の少年への教育、しつけは暴力的で、無惨で、虐待であるというに等しい。
少年の父親は、一家が医者と薬剤師ばかりを輩出してきた家で、一度目の結婚相手である、少年の実母もまた、開業医の娘だった。
この結婚は失敗に終わり、少年の妹は実母に引き取られ、実母は少年と会わないことを条件に離婚する。
この離婚も、父親の少年への教育熱を加速させる。
自分が引き取って育てる以上、絶対に医師に、しかも有名大学を出た医者にすると誓うのだ。
それは有名な開業医であった元嫁の父への意地なのかもしれない。
周囲がみんな医者という環境、そして父親の意地もそこに加わるとなれば、少年へのプレッシャーは二重にも三重にも強くなる。
そして父親はまさに鞭をふるうがごとくに暴力的に勉強を教え込んでいく。
小学生の頃は近隣でも群を抜いてトップにいた少年も、同じように秀才ばかりが集まった、近畿圏でもトップクラスの進学校に入ると、下から数えた方が早い成績に陥ってしまう。
一般の人から見たら無理もないことなのだろうが、もちろん、父親はそれを許すはずもない。
成績が悪ければ、父親の暴力が待っている。
継母が止めようとしてくれても、「息子はおまえの実の子じゃない」と遮られれば、継母はもう立ち入れなくなってしまう。
実母とは会えず、父方の祖父母は父親同様の「医師偏重主義」となれば、少年の逃げ場はどこにもない。
彼が元から反抗的で、暴力的な父親を殴り返すくらいの闘争的な少年だったら話は違っていただろう。
多分彼は一人で家出をし、連れ戻されてもへこたれずに何度も家を出ようとしたかもしれない。
けれど、この少年は複雑な家庭環境の中で、父親の価値観に洗脳されて純粋培養されすぎた。
反抗することは許されず、逃げ出しても結局父親の元に連れ戻され、また更に監視の目が強まることがあまりにも明白に解っている。
となれば、彼の前に残されていたのは「逃走」ではなく、すべてを「破壊」することしかなかったのだろう。
更にこの本の中で提示されているのは、少年が抱えるかもしれないひとつの障害だ。
この記述も含めて、少年のプライバシー云々が取りざたされているのかもしれない。
いずれにしろ、この余りにむごく悲しい事件は、ただ少年のせい、父親のせいとは言い切れないところに、私達が考えなければならない余地がある。
まだ個が確立されていないとはいえ、一人の人間として子供の価値観を重んじる事が出来るか、社会が閉塞された家族にどれだけ踏み込めるか、社会が子供にどれだけ多様な価値観、考え方を提示できるか・・・

やるせない事件だけれども、本書の最後に記された2つの事柄が、かすかな希望を感じさせてくれる。
娘と孫を亡くした継母の両親、少年にとっては義理の祖父母が少年を恨もうとするよりも、少年の更正に力を貸そうとしていること。
そして、専業主婦だった実母が、同じ医学界で息子に会える日が来ることを望んで、一念発起して医師になったこと。
いずれも、なまなかな気持ちで出来ることではない。
読み進めることが辛いところもあったが、この希望の光に救われる思いがした。
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ジャンル : 本・雑誌

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ブラジリアンダンスとブラジル音楽、本と旅をこよなく愛する「恥かき」ならぬ「物かき」です(一応(^^;))。独断と偏見と偏った嗜好でつづるブログでございますが、どうぞお気軽に遊びに来てくださいませ。

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